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ドイツ語通訳の話 その1


ドイツ在住の通訳を始めてからしばらくなる。と言っても正確には、85年の末に西ドイツに
出て、ガイドをし始めたのが86年の春、そして通訳はそれ以降なので、長いといえば長いが、
それほどでもないと言えなくもない。何しろ、30年以上通訳をしている方がいら
っしゃるのだから、私などは洟垂れ小僧みたいなもんだろう。それでもご用命があれば、
どこへでも出かけている。車とガイドと通訳を全て兼ね備えて、三身一体でやっているの
で、便利ではあるはず。

「でも通訳というのは一体何だろう?」と考えさせられることがある。ある人に言わせれ
ば、お客様の食事の際のケア、ホテルのチェックインなどは通訳業務に入らないと言う意
見もある。「私は通訳であって、添乗員、あるいはガイドではない」と言う理由である。
大体添乗員、ガイドなどというのは、お客様が全くこちらの言葉が話せず、チェックイン、
食事の際にも困るからこそ必要なわけで、そのためには絶対に必要不可欠の語学ができな
ければならない。それじゃこの人間は、通訳という能力を兼ね備えていなければならない
と言うことになる。少なくともその際の状況においては。逆に語学ができれば、何でもで
きるということになるのか?と言うとそうではない。ガイドなる者は、町の名所の説明は
もちろん、ホテル、レストランの場所、そして何よりもお客様を楽しませるテクニックを
学んでいなければならないだろうし、添乗員は旅行スケジュールを円滑に、しかも十分に
お客様に楽しんでもらえるように進行させる役目を担っている。

まあそういうわけで、添乗員、ガイド、通訳なる者は、それぞれ違った役目を担っている
のではあるが、それが同時進行することがあるし、させなければならないこともある。
たとえば、ガイドとして団体のお客様を案内している時に、その中の一人が急に倒れた場合、
当然救急車を呼んだりすることになるが、「いや、それはガイドの仕事ではなくて通訳の
仕事です」などと言うわけにも行かないし、通訳で呼ばれた人がバスで移動中に、ちょっ
と現地の事情を話してくださいと言われた際に、「それはガイドの仕事です」と言うわけ
にもいかないだろう。それでも、通訳を専門として活動をされている方も多いと聞いては
いるが、ほとんど出会ったことがない。それでもすごい人がいて、一日ン(二桁)万円要
求するそうである。「私のドイツ語はそれだけの価値があります」と言うそうである。そ
ういう風に言ってみたいし、それでも来て下さい、と言われてみたいものである。グヤジイ!

通訳には大きく分けて、ある程度聞いた後で話を中断させて訳す逐次通訳と、話をそのま
ま中断させずにどんどん訳して行く同時通訳がある。この同時通訳をする人はすごいと思
う。もちろんかなりの訓練を積まねばならないのだろうが、全ての単語を理解して訳して
いるのではないだろう。ある程度の分からない単語を全く無視しながらも、聞いている人
たちには全く違和感のないような言葉を使い、しかも筋道を立てながら話しているのだか
ら、はっきり言って化け物かと思う。この同時通訳を初めて見たのは、アポロが月に行っ
た時に、NHKがNASAを通じて放送した、宇宙飛行士たちの実況中継であった。「ハロー、
ヒューストン。ナントカ、ナントカ、全て順調です」「ナントカナントカ、全てゴーです」
そのときはまだ何とも思っていなかったのだが、このような仕事をし始めてから、同時通
訳というのはすごいなと思うようになった。聞けば、国連のブースで同時通訳をする人は、
30分交代で行うそうである。それだけ神経を集中しなければならないだろうし。疲れる
ことだろう。最近、イラクとか、アフガニスタンなどの報道で、英語をドイツ語に同時通
訳をしているのを、頭の中で日本語に訳すことを試みたりしているが、それを声に出して
話すほどにはなっていない。もっと早くからこういう練習をしておけばよかったと思っている。