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ドイツのガイドの話


ドイツでは、ありとあらゆる職業に関して資格が要ると言っても過言ではない。

そのいい例が「マイスター制度」というもので、詳しく述べるのは次の機会に譲るとして、
職業に就くには資格が必要で、その資格を取得するために訓練を受けたり、学校に行くという、
完全に学歴と資格と職業が一致する。従って、学校はあくまでも職業訓練をする、
あるいは、その準備のために行く、ということになる。

どこかの国では、「家では親の言うことを聞かないので、せめて学校で言うことを聞くように
お願いします」と親が先生に言うらしいし、それを学校の先生も引き受けるらしい。
ドイツだったら、「躾をするのは親の義務であり、権利であって、学校の仕事ではない」、と
拒否するであろうし、親の方は、「学校はあくまでも学問をするところであって、躾をする
ところではない。躾という親の権利、義務を奪うものだ。学校は余計なことはしないでくれ!」、と
親の方から総スカンを食うだろう。

というわけで、資格を取るには学校に行くと同時に、学校に行かなければ資格が取れない、
というわけである。逆に、資格を持っていれば、実務で全く能力がなくでも認められる、
と言うことを意味する。職安に行って仕事を紹介してもらう際には、「何ができるか」、ではなく、
どんな資格を持っているか、どのような職業訓練を受けたかを最初に聞かれる。

興味深いのはあのサッカーナショナルチーム監督だった・フランツ・ベッケンバウアーである。
彼はサッカートレーナーの資格を持っていないので、正式にはコーチになれなかった、
と聞いている。

ところが、ドイツのガイドには資格が要らない。と言うよりも、はっきりとした職業として
認められていない、と言ってもいいかもしれない。ちなみに、ドイツのシステムではF1レーサーも
同じで、有名なシューマッハーの持っている資格はF1レーサーではない。
彼が持っている正式な資格は、保険の外交員である。知ってました?まあ、F1レーサーぐらい
になれば資格がどうとかこうとか、という話はしなくてもいいだろうし、税金を払っていれば
全く問題はないのだが。同じ車を運転しているのに、何でこんなに収入が違うんだ?
なんてひがんだりしている。

ドイツのガイドには資格が要らない、と書いたが、これはガイドの仕方を教えてくれる
公共機関がどこにもないことを意味する。従って、誰でもガイドとして働けるし、全く
ガイディングができなくでも、今日からガイドとして働くことができるのである。

私自身がハイデルベルクに住もうと思ったのは、このガイドとして働こうと思ったからに他ならない。
ドイツに興味のある人は、何がなくてもハイデルベルクを訪れるし、私自身もそうであっった。
ところが、ガイドの仕事をどこから、そして、どうやったらもらえるかということを全く知らないままに
ハイデルベルクに住み着き、2ヶ月ほどしてから町の日本人が経営しているお土産店に
買い物に入った。
そこのマネージャーのN氏が、「こちらにお住まいですか?」「ええ。まあ…」「お仕事は?」
「失業してます。ガイドの仕事をしようと思っているんですよ」.「それじゃあ、そのような仕事を
回してくれる旅行会社があるんで、ご紹介しましょう」。

まさに天の助けである。「電話が必要ですから、なるべく早くつけて、ガイドブックを読んで
町のことについて一生懸命勉強しておきなさいね」。「ええ。ありがとうございます」。
それから懸命な勉強が始まった。これで食べていこうというのであるから、
こちらも必死である。
毎日の様にガイドブックを読み、頭に叩き込んで、さらには声に出して練習し、
時にはを観光する日本人学生2〜3人連れを捕まえて、無料で案内をしながら
ガイディングの練習をしたのだった。

そして免税店のN氏から頂いた、フランクフルトにある日本の旅行会社、
あるいは手配会社のリストをもとに、仕事を紹介していただきたいと電話をかけた。
反応はさまざまであった。「そういう人がいると、こちらも非常に助かります」、
「期待しております」、と言ってくれる旅行社から、「うちはもう何人もいますから、
いりません。どうしてもお願いします、と言うのであれば、考えてもいいんですが」、
と言う会社もあったのだが、おおむねは肯定的な返事がもらえたのだった。

その後、一応その肯定的な返事をしてくれた会社を訪問した、あれこれ
ガイディングのアドヴァイスをして頂いた。
日本最大の旅行会社のフランクフルト支店では、学生時代にドイツ語の勉強を
していた仲間にばったり再会するという、おまけまで付いていた。

さて、最初の仕事はガイディングではなく、学生グループをハイデルベルクのホテルから、
中央駅まで送り込む、というトランスファーであった。二台のバスで、もう一台を担当したのは
学生アルバイトであったが、すでに長くガイドをしているHさんで、私は見習い、
という形になった。

中央駅に到着して、ここで昼食のお弁当をピックアップすることになっていたのだが、
来ていない。
Hさんはすぐに駅のレストランに行き、ハンバーガーの様なお弁当60食を45分ぐらいで
用意できるか訊ねた。いや、その前に旅行会社にどうなっているのかを問い合わせよう。

結局旅行会社の手配ミスで、マインツでお弁当を乗せることになり、レストランに注文するのは
なしになった。
なるほど。こういう感じか。

その後、このハイデルベルクでかなり長くガイドをしているNさんの案内するバスに便乗させて
頂き、町のガイディングを見せてもらえることになった。中央駅からハイデルベルク城、そして町の
案内はもちろん、お客様を下ろす場所、バス乗り場、トイレ、そしてお土産店についてなどの
重要なポイントを伝授して頂いた。

そして最初のハイデルベルクの案内をする時が来た。ところが、待てど暮らせどバスが来ない。
結局1時間以上待たされてやってきたのだが、途中でバスが故障し、代わりのバスに乗って
来たとのこと。
お客様の案内自体は自分でも驚くぐらいにうまく行った。

その後、ハイデルベルク市内観光を幾度かやった後は、フランクフルト国際空港で
お客様を出迎え、フランクフルトの町を観光後、レストランで食事してからハイデルベルクに
移動し、観光してからホテルまで、という仕事であったが、これもまたグループがやってこない。
空港内であちこち探してもいない。
それもそのはず、旅行会社問い合わせると、グループが飛行機に乗り遅れてしまったとのこと。
最初のグループはトラブルが付くらしい。結局は一便遅れて到着し、スケジュールが乱れてしまったが、
お客様に、「遠かった、遠かった、フランクフルト国際空港でした!」と話すと、お客様に「ワーッ!!」、
と大うけした。

この様に、トランスファー、町のガイド、空港から町のガイド、そして泊りがけの、いわゆる
スルーガイドという、段階を経て、最後はスイス、オーストリア、チェコ、ハンガリー、イタリアあたりまで
お客様をお連れする様になったが、その間、結局は色々なガイド仲間から色々な情報を教えてもらう
機会に恵まれ、ありがたいことに、これが私のガイド学校の代わりとなったのである。

ちょうど私がガイドを始めたタイミングがよかったせいもある。
バブル経済華やかなりし頃で、どこでもガイドが不足し、お互いに仕事を代わってもらったり、
紹介してあげたりすることができた時期であった。

以前からイタリアや、オーストリア、パリなどでは現地のガイドを必ずつけなければならない
ことになっているが、ドイツではその必要がない。
そういうわけで、最近は経費を削減するために、ベルリンなどを除けば、町のガイディングは
添乗員がしてしまうのが多くなっている。

ローマのガイドはフィレンツェや、ベニスのガイディングをしてはいけないと聞き及んでいるが、
そうなれば、イタリアではスルーガイドというのもない、ということになるのだろうか?

ドイツではそういう規制がないので、スルーガイドの存在が許される、ということでもある。
お互いに一長一短があるにせよ、グループ旅行が減り、個人旅行が増えて来ているが、
ガイドなしで、ガイドブックを片手に町を観光しているのがほとんどである。
もちろん、それだけ費用はかからないし、その様な旅行をすること自体を否定するものでは
ないが、言葉も通じない場所で、地図を見ながら、あれこれ探して歩くということが、
どんなに大変であることか。これは私自身が、個人的にフランスやポーランドに行って
実際に体験したことである。捜し疲れて、「もういいや」。あるいは、やっと見つけたら、
5分遅れで入場できなかったなどということがあった。

特に時間の限られて人たちにとっては、ガイドを雇うことによって、自分が
行きたい場所を探すという時間の無駄が省かれ、食事やトラブルの際に言葉が
通じるという便利さがあり、色々な説明や案内によって、旅行の楽しい思い出が
何倍にもなるのです。

ゆめゆめ、このガイドの便利さを忘れてはいけません。